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大家んち
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秘密の風穴
以前働いてた時、あたしは編集長と「仕事」の話が通じないと感じてた。
だから、話が通じると思う人に相談するようになって、そうしているうちにまるで自分が正しいかのように勘違いし始めて、いつの間にか「この雑誌はあたしが作ってるんだ」なぁんて妄想まで抱くようになった。
なんて傲慢なんだ。
それで結局、職場の人間関係が悪くなって、雑誌を良くするどころか、雑誌作成に携わることさえできなくなった。
いい雑誌を作りたかったら、最低作成に携わらなきゃできない。そして、その最低をクリアするためには、最低職場の人間関係ができなきゃいけなかったんだ。
そんな、最低の最低すらできなかったあたし。
そのことに気付いたのは、仕事を辞めて数年経った頃だった。
雑誌を買うお金を払う人に、誠意を持ってその価値に応えなきゃいけないんだって、あたしはワーワー伝えてた。言うだけじゃなく、あたしなりに努力もしていたつもりだった。
だけど何十年もその仕事をしていた彼女には、きっとあたしには見えていなかったものが見えていたのだろう。
今は、そんな風に思う。

そう思っているはずのあたしは、また同じことを繰り返そうとしてるのかもしれないと足踏みしてる。
同じ立場であるはずの同級生に対し、「仕事」の話が通じないと感じてる。
どう通じないかっていうと、「あの色綺麗だね」って言ったら「うん、にがいよね」って返ってくる感じ、掛け算習ってる時に漢字の読み方を聞かれる感じ。
一緒に仕事をしなきゃいけない相手だから、伝えたいと思う。
思うけど、話せば話すほどすれ違ってばかりで、そのうち話を聞いてさえもらえなくなる。あたしも疲れてしまう。
よく話をする同級生には伝わることが、伝わらないように感じる。
どうしたら彼ら彼女らの理解に沿って伝えられるのだろう、どこまで言葉を使えば伝わるのだろうと考えるけれど、そこに心労していると、学べるはずのものがおざなりになっていく。
半年過ごした今、自分の能力の限界を感じて相談しようと考えた。
でも、そのことがいいことなのかどうか、また仕事をしてた時のことを繰り返さないか、そういう躊躇を抱えてもいた。

毎週毎週、もれなくミスが続いた。
あたし以外の全員が、割と大きなミスを連発していた。そのことで、全員が注意を受けた。
たまたまあたしはミスに繋がっていないだけ、そう言い聞かせながらも、なぜ同じことを繰り返すのかという苛立ちも本当はあった。
常に全員のフォローをすることに疲れ、困らないと学べないのだろうと、ミスが起きること覚悟で放置したのはあたしだった。
なぜこの時期になってミスが増え始めたのか、スタッフは分からないと言う。あたしは、それがなぜかは分かっていたけれど、それを隠し持ったまま、どうすればいいのかは分からなかった。
秘密を抱え、追い詰められて、困ったのはあたしだった。
ミスをした同級生は「まぁ、いっか」と笑う。「声掛けして」と頼る。スタッフは「同級生で話し合うように」と言う。
あたしがミスを起こしてなくても、同罪だった。そして、仕事に対して迷惑を掛け続けるのは、もっと大きな罪だった。
あたしは秘密を打ち明けることにした。まずは話が通じると思っている相手に。働いていた時の経験があったから、多くは語らなかった。話すことを躊躇っていることも伝えた。
秘密は、一度風穴を開けると、どんなに小さな穴であっても、秘密ではなくなるんだ、多分。

今までずっと言えなかったことを、いつの間にか当人たちに話してた。
やっぱり通じない。
見当違いの答えが返ってきたりする。
それでも、通じると思っている相手にだけ話すよりも、当事者に伝える方がずっとストレートだと思った。
言い過ぎたかもと反省して謝罪したら、感謝の言葉をもらえた。話し合う時間を作りたいというあたしの提案に、乗ってくれた。
自分だけが見えていると思って、見えていることを見せないまま、話しても通じないと感じて、話すことを諦めさせていたのは、あたしの傲慢さだった。
優等生もどきからの指示がなくなって、ミスが起きて、課題が浮き彫りになって、反省して、それからじゃないと伝わらないってことなのかもしれない。
結局、やっぱりあたしが彼ら彼女らの学びを奪っていたのかもしれない。
秘密の部屋に風穴を開けて良かった。
後は、精一杯伝えようと言葉を使うことだけ。それを受け取るのは、あたしにはコントロールできない他者。


| ユキ | 23:22 | comments (12) | trackback (x) | giornale(日記) |